これは6月の末の話になりますが...
石田洋服店で2着目となるジャケットを依頼しました。
石田洋服店は六甲アイランドにある神戸ファッションマート内にあります。
六甲アイランドという神戸に住んでいる人でさえ行くことは滅多にない秘境に石田洋服店はあります。
石田洋服店はスーツやジャケットのオーダーメイド専門店です。
ハンドメードとマシンメードの2つのラインがあります。
ハンドメードは仮縫い、中縫いを行い、随所に手縫いを行うことで着心地を極限まで追求し、また複雑なディティールにも対応する
もくじ
1着目にオーダーしたハンドメードのスーツ
一見どこにでもあるようなスーツです。
それどころか一般的な量販店で売られているスーツに比べてどこか疲れた風貌をしています。
へ?フルオーダーの仕上がりがこれ??って思われた方もいるかもしれません
注意して下さい。ハンガーにかかった状態でカッコイイスーツは売るために作られたスーツであって人体を考慮して作られてたものではない可能性があります。
本来洋服とは立体的に作られているのでハンガーやトルソーにかかった状態でカッコよくなるわけがないのです...
実は日本で既製品がハンガーにかかった状態でピシッとしていないと売れないという事情があります。
スーツやファッションに興味がない人がスーツを買いに行くときにハンガーにかかった状態で判断し大まかなサイズが合っていればそのまま購入します。
ということは最初にハンガーにかかった状態が非常に大切というわけです。
その導入部分が間違っているので、いつまで経っても「スーツはしんどい」という感覚が無くならないんだと個人的に思います。
スーツやジャケットは立体的に作られています。人体に合わせて設計されているので曲面が非常に多いです。
しかも人体は関節が多く非常に複雑な動きをするということを考慮して人体を包み込むように高い技術をもって設計されています。
ですのでスーツやジャケットが一番輝く時とは、人が着用したときなんです。
ファッションショーはモデルがブランドの服を着てランウェイを歩いていますが、これは人が着るという大前提で設計されていて実際に人が着て歩くことで完成します。仕立てのレベルの高さを見せたり歩くたびに出る高級生地が作る自然で優雅なドレープを見せるためです
服は着るものであるという大前提を考慮しない日本のマーケットではトルソーやハンガーにかかった状態で判断してしまいます。よく売れるから...
BrioniやKitonでハンガーにかかっているスーツやジャケットを見ると一目瞭然ですが、非常に頼りない。どこか疲れたような風貌をしています。
よくこんな見た目で高額取ろうなんて思えるな...と最初は思いました。
しかし、袖を通すと体にフィットし疲れた風貌が突然キリっと締まります。
技術力が高く各所を立体に作られているという表現がよくわかると思います。
スーツやジャケットの着心地を左右するのは物理的な軽さや素材の伸縮性、品質ではありません。人体の曲面に沿うように作られており、体を動かしたときを考慮して作られているものが着心地が良いという感覚を作ります。
super180'Sのウール100%はカシミヤより細い原毛
super○○sというのは生地の高級繊維であるかを測る尺度です。一般的にはsuper130くらいが一般的と言われていて140,150と数字が上がっていくにつれて高級素材とされています。
superの表記については誤解があり、糸の細さの表記だと思われている方がいますが違います。
正しくは原毛の太さです。
一般的にはsuper100s~130sくらいがビジネスで着るには一般的です。superの表記が高くなるほどに生地そのものも繊細になりますしシワもできやすい。なにより摩擦などに弱く耐久性に難があります。
私もそれは十分承知していましたが...好奇心を抑えることができませんでした笑
仕立てたsuper180sのスーツは役員クラスの人たち向けで合って一般的なビジネスの現場には全く向きません。
そんなにも細くて繊細なSuper180'Sの生地ですが、仕立てた生地は意外に頑丈です。
理由の一つは生地を織るときの糸に使用されている原毛の毛足が長いことが挙げられます。羊毛といってもその長さがはそれぞれあります。一般的により細く長い毛足のものほど高級となります。毛足が長くて細い原毛は採れる量が相対的に少なく毛足が長い原毛で撚った糸は細いものに比べて毛羽立ちが少なく光沢も増します。
よく量販店などで売っている1着1万円のカシミヤがありますが、すぐ毛羽立って毛玉になることがありますが、その原因が毛足の短い原毛を撚った糸を使用しているからだといわれています。やはり安かろう悪かろうなんだろうなと感じてしまいます。
さらにこの生地を織るにあたって糸を密に織っているので綾織ではありますが、生地の目がぎっしり詰まっていて強度があります。
着心地について
型紙を一から起こして仮縫い、中縫いを経て完成をしているので着心地は既製品やパターンオーダーと比較しても抜群に良いです。
着ているのを忘れるくらい軽く感じます。
ジャケットを手に持つと一般的なジャケットよりも重いかもしれません。肩パッドは今どきのモノに比べて厚みがあるものが入っていますし、生地自体が少し重いので。
しかしジャケットを着てみると肩はしっかり収まり肩甲骨あたりが張るということもないので肩がこらない。変なシワが出ない。
さらにはアームホールを小さくすることで腕を動かしたときに引っ張られず動かしやすいので着心地が良くなる
本当に素晴らしいとしか言いようがありません。
2着目にオーダーしたハンドメードジャケット
生地は染めていないベビーキャメル(ラクダ)
写真ではかなり光沢ありますが、実際に仕立てる際には毛を起こすためもう少しマットになります。
さらに私の撮影技術が追い付いていないため少し赤茶っぽく映りますが、赤よりのベージュといった感じです。
6月中旬に冬物の掘り出し物があるという話を聞き石田洋服店に行った際に一目惚れしました。本当は掘り出し物の冬物スーツ地を見に行ったのですが写真のキャメル地を紹介された際に鳥肌が立ち迷うことなく購入を決定しました。スーツ地について考え抜いた結果保留しました。
ブライトよりのトーンのベージュで、パンツは素材や色を選ぶことなくなんでも合わせることができる万能アイテムに感じます。
ジャケットとベストを依頼
このベビーキャメルの生地でジャケットとキャメル地では珍しいベストを依頼しました。
キャメル地はコートの生地として有名で保温性に非常に優れています。その保温性はカシミヤにも負けないほどです。そのキャメル地にジャケットを厳冬であっても着ることはやはり難しくコートが必須ですが、キャメル地のベストが一つあるだけでかなり暖かくコート不要です。
また色もトーンの高いベージュですので他のジャケットとも相性が良いので、かなり万能アイテムになると思います。
仕上がりが非常に楽しみです。
おわりに
フルオーダーやビスポークで仕立てるときは無難にスーツを選択したり、どうしても普段着慣れているスーツに近い色のジャケットを仕立ててしまいます。
決して安い買い物ではないので清水の舞台から飛び降りる気持ちで選んだものが着ずに箪笥の肥やしになるのは避けたいところです。
ただ失敗したくないという気持ちが強過ぎると毎回グレーかネイビーばかりになってしまいます。もちろんその時は最上と思って選んだ柄や色が後々飽きてしまって着なくなっては意味がありません。
今回選んだキャメル地ですがまず失敗がない丁度良い色をしています。
キャメル色はくすみのある赤みの黄となります。
このくすみのトーンは非常に多く冬物の代表的なトーンです。
最近のド定番な合わせ方とすれば、ミディアムグレー、明度の高い白に近いもの、また少し色落ちしたデニムやダーク系の茶、くすんだ赤、青、カーキなどあらゆるアイテムに合わせことが出来るまさに万能アイテムです。
一言でベージュといっても色々なトーンや赤よりだったり緑よりだったりして微妙に変化があります。
キャメル地はその物性上、色を薄く染めることが出来ません。
※希少性の高いホワイトキャメルがありますが、この生地はキャメル地の中かから白を選りすぐって選ばれているもので超希少な生地です。
※濃く染めて紺色などはあります。
ウールやカシミヤは原毛を一度漂泊してから染め直すのですが、キャメルはこの漂泊ができません。
つまり本物のキャメル地の色はくすみのある赤みの黄になります。
また染めることが
一着持っていると非常に便利です。
たまたま石田洋服店に残っていたので奇跡です。
仮縫いの風景を撮影するのを忘れていました。
次回中縫いがありますのでその風景は撮影します。